THE UNEXPLAINED ISSUES
”いざなぎ超え”は話し合いの結果だった?9月25日に茂木内閣府特命担当大臣が会見で、戦後二番目の景気拡大「いざなぎ景気」を超えたと発表すると、「いざなぎ超え」というキーワードがニュースやネットを賑わしました。そんなに景気よかったっけ?と思ってしまったのは私だけでしょうか。 誤解のないよう検証するために、茂木大臣の言葉を内閣府のHPかから引用してみました。 景気の山谷の判断は、データの更なる蓄積と専門家による事後的検証を最終的には待つ必要がありますが、2012年11月の景気の谷以降、本年9月までで景気回復の長さは58か月となり、戦後2位のいざなぎ景気を超える景気回復の長さとなった可能性が高いと考えられます。 なるほど、その判断根拠となったデータをいざなぎ当時と比べてみれば良さそうですね。 景気拡大の判断指標はGDPではない?てっきり実質GDP成長率を比較すればよいかと思っておりましたが、景気の拡大期、後退期の判断は「ヒストリカルDI」という指標をもとに行われるようです。この「ヒストリカルDI」の谷から山にいたる期間が景気拡張期と判断されます。山というと響はよいですが、そこをピークに景気は下降するので「山がつく」というのは景気拡張の終わりを意味するようです。したがって今は山がつかない時期が「いざなぎ」の57ヶ月を越えている状態にあるのです。では、「山」をどのように判断するのでしょうか?詳細は、やはり内閣府の解説をみていただくとして、要点を抜粋すると以下の通りです。 一致指数の採用系列から作成したヒストリカルDIが50%を上回る直前の月が景気の谷,50%を下回る直前の月が景気の山に対応する。 ということは、「ヒストリカルDI」という数字が50%以上の期間が、史上二番目の長さになったということですね。で、月次の「ヒストリカルDI」一覧表をみてみると...全然下回ってますね(下図の赤でマークした箇所)。 消費税増税のタイミングで冷え込んだのが一目瞭然です。ではなぜ2014年3月が「山の終わり」に特定されなかったのか。議事録からこのような発言があります。 第 15 循環の景気の谷以降、景気の山はつかなかった」との結論は了解だが、今回は 景気の山谷を設定する際の3つの要件のうち、「波及度」がゼロになっていない点が山 を認定できないほとんど唯一のポイントになっており、ぎりぎりの判断。「波及度」に ついてヒストリカルDIをみると、2014 年以降は 22.2%までしか落ちていないが、第 15 循環の後退局面の最低値も 20.0%とほぼ同程度。 景気拡大が続いているのではなく、景気後退の判断をお話し合いにより見送ったという事実すなわち、景気の山谷というのは自動的に設定されるのではなく、主たる指標である「ヒストリカルDI」に加え複数の指標を参考にしつつ、景気動向指数研究会の方々がお話し合いで決めているのだということ。その結果、今回は50%を下回る時期は長かったものの、「ゼロではなかった」ので景気後退に入っていない、ことにしたのだそうです。「ヒストリカルDI」の最低値は、第15循環期の谷とほとんど変わらず(下図左)、さらに実質GDP成長率のは同期より下降しており(下図中央)、景気変動の大きさやテンポ(量感)を表すCIの一致指数は第10循環期よりか効率は低いけれども(下図右)、景気の谷に入らなかったと判断したということです。景気回復の長さが58ヶ月を越えたと実感できない人が多数いるのも、さもありなんという状況ですね。 実際、いざなぎ景気のときのGDP成長率と比べてみるとこんな感じです。成長率の低さが否めません。上のGDP成長率の内訳をみても、目立った改善は純輸出といったところでしょうか。円安誘導政策のおかげで好調な輸出は、法人実効税率の引き下げ(2012年37%→2017年29.97%)とあいまって企業の業績を押し上げました。2016年の企業収益は過去最高の75兆円に達しました。企業の業績が好転しても、一般市民に好景気の実感が伝わらないのはなぜでしょう。 企業も景気拡大の継続を疑問視しているのではというギモン以下に掲載しているのは、茂木大臣が「いざなぎ越え」記者会見を行った当日の会議資料です。企業の儲けが伸びているのがわかります。一方で、労働分配率、すなわち粗利に対する人件費率は低水準となっています。要は人件費に反映されていません。収益の増加に対し、人件費や設備投資は低位に止まっています。企業がヒトやモノに投資しないのはなぜか、考えてみます。 製造業の業績好転に、円安が貢献しているというのは間違いなく言えるはずです。残念ながら、この円安には、一時的に輸出額を押し上げる効果はあっても、輸出量を増やす効果には限りがあります。下の図を見ていただくと分かる通り、輸出から為替効果を除いた実質輸出は、円安が加速する2014年以降低下しています。低下要因は不明ですが、円安を利用して価格競争力を上げて(値段を下げて)、他の製品より売れるようにすることは出来ても、製品自体に魅力や新規性がなければ新たな市場を創出することは出来ません。製造業は日本のGDPのおよそ2割を占めるため、政府が後押ししたいのも理解できますが、企業も為替で輸出額が伸びた位では、国内の設備投資や雇用推進に踏み切れません。特に終身雇用・年功序列型の給与体系を取る企業では、一時的な利益の改善から「基本給を上げる」というアクションに踏み切るのは難しいでしょう。法人税率が引き下げられようとも、銀行からの融資がおりようとも、投資判断には需要増加のサインが必要なのです。 では、国内の需要の伸びはどうなっているのでしょうか?自動車産業は、日本の全就業人口の1割を雇用するといわれる、すそ野の広い産業ですが、残念ながら新車販売台数に成長はみられません(下のスライド参照)。機械受注にも力強さはなく、設備稼働率も100付近を漂っています。やはりマクロでみると設備投資が大きく伸びる兆候はなさそうです。 いざなぎ越えの高揚感から遠のいてきたところですが、他の産業や、雇用の実態はどうでしょうか。このテーマ長くなりそうですので、その2に続きます。 つづく
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