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THE UNEXPLAINED ISSUES

ニュースノギモン

モノづくり日本のガバナンスってどうなの?/東芝はウェスティングハウスの被害者か(3)

11/11/2017

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ウェスティングハウスの巨額損失を招いたガバナンス


​S&W買収が東芝にもたらしたもの
S&W買収により、顧客との和解がもたらされました。2つある原発プロジェクトのうちV.C. summerについては、その条件が明らかにされています。まず、スケジュールが緩和され、当初2017/2018の運転開始予定(一基ずつ)が、2019/2020に後ろ倒しに
なりました。さらに、ウェスティングハウスは約2億5千万ドルを建設コスト上昇分として支払いを受けた上で、固定価格オプションとして9億1800ドルも受け取ることになりました。固定価格オプションとは、この価格を下回ってもウェスティングハウス(WEC)は全額受け取ることが可能なかわり、この価格をどれだけ上回っても全てがWEC負担となるというものです。結果的に、この契約がウェスティングハウスを苦しめることとなります。
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SCANA発表資料より、ニュースノギモン作成

固定価格オプションは「不平等条約」だったのでしょうか?
そうとも言えません。この契約見直しで幾分かの追加費用はもらえた上に、納期も後ろ倒しになりました。電力会社は電気を売ってナンボです。発電を開始する時期が遅くなるほど儲けも減ります。資金調達コストも上昇します。生産税控除といって売電料金から税金を控除してもらうにも、
2021年初の運転開始が条件となっています。工程遅れを繰り返しているプロジェクトで締め切りギリギリの納期とは、なかなか勇気がいります。V.C.Summerのオーナーも譲歩をした訳です(2017年時点の顧客による再分析では、運転開始予定は、2022/2024となりました)。

もう一方の原発プロジェクトVogtleについては、固定価格オプションの詳細は把握できませんでしたが、同じように運転開始時期が延期されていますので、WEC側に何かしらリスクテイクが盛り込まれたのではと推測します。
WECはS&W買収の工期遅れを知っていたのか
私は知っていたと思っています。そもそも散々工期遅れで揉めていたわけです。将来の遅延リスクをアセスメントしないはずがありません。まずEPCプロジェクトでは、大工程・中工程・小工程に至るまでスケジュールソフトで管理しているはずです。前々回書いたように、ウェスティングハウスはデジタルプラットフォームの使いこなしが不得手であったようです。とはいえ買収してリスクを1社で抱え込むなら、2015年8月のデュー・デリジェンス(買収対象調査)で、現状について開示を求めるはずです。ついでにいうと、大型建設工事では何をどの順で搬入するか、建設するか、がコストを大きく左右します。従って、工事のテリトリーが違うからといってウェスティングハウスがS&Wの工事進捗を全く知らないというのはありえません。

工程は精査したけど、品質が不十分で結果遅れた、という可能性もあるでしょう。しかし、S&W側に品質問題があること以前より指摘されていました。FInancial Timesの記事によると、Vogtleプロジェクトを管轄するジョージア州の公共サービス委員会が、2014年時点で「納品の遅れ、サブモジュールの品質未達による深刻な修正業務の発生」「品質確認プログラムが不十分」が、工期を遅らせていると指摘しています。

つまり、工期遅れについても品質管理工程についても、看過しようがないのです。
東芝はS&Wの工期遅れを知っていたのか
当然知っておくべきとは思いますが、知らなかった可能性は否定できません。薄々リスクは感じていたけど、過小評価していたのではないでしょうか。

まず、ウェスティングハウス(WEC)と東芝経営陣との信頼関係の欠如により情報共有が不十分であったとの仮説がたてられます。過去にはウェスティングハウスの適正なコスト計上を「過小計上しろ」といってきた親会社です。しかもそのために調査チームまでわざわざ日本から派遣してきました。東芝取締役会がS&W買収を審査するのであれば、「だったら自分で調べろ」とWECサイドが思っても不思議はありません。
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東芝株主向け発表資料、2017年2月
ところが、東芝本体は、S&Wはタダ同然の買収だから、ウェスティングハウスとコンサルが見ておけば大丈夫だろう、というレベルだったのではないでしょうか。左の東芝資料抜粋によると、15年8月からデュー・デリジェンスレポートが開始され、買収リスク対策が検討されたことになっていますが。
​S&Wを売却したCB&Iのトップが、売却の理由をこう語っています。“complete end to responsibility or liability” つまり、プロジェクト遅延に伴う責任と債務からの一切の解放です。対する東芝は、どれだけの責任と債務を認識していたのでしょうか。後に「買収する前に精査すべきでなかったか」との指摘を受けたCFOが「買収前には見れない資料もある」と言ったそうですが、開示された資料を手がかりに必死にやれよと言いたくなります。
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実際、東芝が全体像を把握するには死に物狂いで取り組む必要があります。そもそも東芝のエンジニアはBWR系の原発には精通していますが、ウェスティングハウスはPWRです。しかもS&Wが建設しているのは、その中でも最新のAP1000というタイプの原発です。東芝のエンジニアが見慣れている工程管理ソフトと、S&Wの工程ソフトが異なることもあるでしょう。長期的に東芝がWECのプロジェクトに目を光らせていたのであれば、読みこなせる人も多くいたでしょうが、これまで野放しにしていた訳です。まして買収検討段階で情報を開示する人員には、限りがあります。人海戦術で精査することも不可能であったでしょう。


結果、買収後になって、新たなEPCパートナーであるFluorより工事見積もりを提示され、社長も驚愕するという顛末に至ります。第3者評価という手段があるなら、買収前にやっておけよ、と思わずにいられません。2015年という年がその猶予がないほど差し迫っていたとしても、固定価格オプションであったり、親会社保証であったり、引き受けるリスクは膨大なわけですから。
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東芝株主向け発表資料、2017年2月
そして、買収後最初に発生したのは、S&Wの運転資本についてのCB&Iとの認識不一致でした。2016年4月のことです。
  • 買収後のS&Wの運転資本は、約12億ドルを目標に調整されるはずだった
  • WECは設計変更によるコスト増により運転資本はマイナス9.8億ドルと査定
  • 差額20億ドルをCB&Iに請求
私は裁判についてはよく分かりませんが、こうした裁判は長引くものらしいです。
この間、新たなEPCパートナーFluorに工事見積もりをお願いしたところ、人件費やら調達コストやら値上がって、61億ドルの将来コストが判明したとのこと。東芝の発表を信じると、2016年12月にWECより東芝に、この報告がなされたそうです。
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東芝株主向け発表資料、2017年2月
61億ドル、左の東芝資料と表記を揃えると6,100百万ドル。結果的に、Fluorが提示したコストがマルッとのれんの減損になったようです。2015年のウェスティングハウス本体の減損は、過去の投資を損と判定したまでですが、S&Wの場合二束三文で買ったはいいが、将来お金を垂れ流すことになるわけです。
情報伝達の階層
2016年12月にウェスティングハウスからの報告がなされるまで、東芝の綱川社長は全く損失のことを知らされていなかったようです。

一部報道では、ロデリック氏と志賀氏がこの12月の損失発覚に際、WEC側に会計を捻じ曲げるよう圧力をかけたと言われています。ロデリック氏は、その後WEC会長を事実上解任されています。2022年までウェスティングハウスとの雇用契約があった訳ですが、それもウェスティングハウス側が拒否しています。

あくまでも、私の仮説ではありますが、情報は
ウェスティングハウス > 東芝原発コア(ロデリック氏もこちら側) >東芝その他経営陣 
​と3階層に分断されていて、東芝の非原子力首脳陣は最後まで実態を把握する術がなかったのではないでしょうか。

超 推測:ウェスティングハウスはなぜS&Wを買ったのか

最もコストオーバーランの実態を目の当たりにしていて、直近の原発プロジェクトで苦労しているライバルたちをみていて、S&Wの問題も認識していて、なぜWECはS&Wを買ったのか。

チャプター11やむなし、と思っていたのではないでしょうか。何の責任もない個人の立場で言わせてもらうと、チャプター11狙っていたのでは、と。

チャプター11とは、iFinanceさんによると、倒産処理とはいっても再生のための負の遺産の整理プロセスのようなもの。日本でいうところの民事再生法に近いようです。
「米連邦破産法第11条」とも呼ばれ、アメリカ合衆国連邦倒産法の第11章のことを指すと共に、当該条項に基づいて行われる倒産処理手続のことをいいます。 〜中略〜
一般にチャプター11は、米国の連邦倒産法において、再建型倒産処理手続を内容とするもので、債務者自らが債務整理案を作成できることから、日本でいう民事再生法に相当します。また、チャプター11を適用した企業では、全ての債権回収や訴訟が一旦停止され、事業を継続しながら、過去の「負の遺産」を法律によって強制的に断ち切り、存続価値のある企業を目指して経営再建に専念できることから、比較的短期間での再建が可能と言われています。
チャプター11がもたらしたもの、それは終わることなく続くかに思われる原発プロジェクトの管理からの開放でした。Vogtleのプロジェクト管理は、オーナーサイドに移管され、EPC企業も新たにオーナーにより選出されました(結局、Fluorが負けてBechtelに)。V.C.Summerは、数ヶ月後にプロジェクト中断が発表されました。

新型の原子力プラントは、だいたいコストオーバーランが発生するといわれています。WECのAP1000もご多分に漏れませんでした。コスト削減・短納期に貢献するといわれていたAP1000で導入されたモジュール設計(部品をある程度事前に組み立てて現地に搬入する)も、蓋を開けてみるとS&Wの組み立て技術が稚拙だったり、現地でクレーンの負荷が大きかったりと問題だらけ。そもそも、ウェスティングハウスに建設プロセスをシミュレーションする能力が欠けていたり、全体スケジュール管理ができていなかったり、と。そろそろプロジェクトを主導する立場を誰かに譲りたかったのではないでしょうか。

ウェスティングハウスは、抱えるべき将来のコストからリリースされ、その役目は東芝が負うこととなりました。2015年にあんなに恐れていた親会社保証が、チャプター11により発動されました。Vogtleに4,129億円(37億ドル)、V.C.Summerに2,432億円(22億ドル)で調整がついたようです。上限なしの建設契約を白紙にし、Fluorが見積もった将来コスト(61億ドル)と近しいところ(59億ドル)で損切りをしました。つまり顧客が将来エンジ会社に払うだろうお金を、東芝が提供したのです。

ウェスティングハウスがチャプター11を狙ったのか真相は知る由もありませんが、プロジェクト管理からの開放とコア領域に専念できることに喜んだ人は、WECの中に一定数いたのではないでしょうか。
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東芝はウェスティングハウスの被害者か
という最初のギモンに立ち返ると、私はノーと考えています。
First of  its kind(ハツモノ)の原子力プラントが、計画通りのコスト・スケジュールで進むことは起こりえないと、業界関係者はよく言っています。それを受注して遂行していく責任と覚悟を東芝は持ち合わせていませんでした。

プライドの高いウェスティングハウスはコントロール不能で、泥沼に東芝を引きずり込んだ、と日本のメディアではよく書かれていますが、それは一方的な見方です。買収から10年あまり経つというのに、PWRという技術についてもEPCについても任せっきりで、会計上の帳尻合わせばかりを気にするガバナンス。そんな親会社に対する不信感が情報の壁を作り、そこに東芝がS&W買収リスクを過小評価する余地が生まれたのではないでしょうか。

情報の伝達には(現場から上にあげる場合であっても)、選択性があります。上が黒といえば赤字も黒になる経営陣のモノカルチャーが、人の心を過小評価させてしまった、そこにこの問題の真相があるように思えてなりません。
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