THE UNEXPLAINED ISSUES
ウェスティングハウスの巨額損失を招いたガバナンス④S&W買収とは何だったのか買収後に行われた不可解な人事 どうしても見過ごせない人事があります。2016年6月の志賀重範氏の東芝会長就任、ダニエル・ロドリック氏のエネルギーシステムソリューション社社長就任です。 両氏はウェスティングハウス(WEC)が、「減損隠し」を疑われた時期に、ウェスティングハウスの中枢にいました。恐らくですが、減損をなかったことにしようとする東芝のウェスティングハウスとの調整役であったと考えられます。 下の年表は、前回利用したものにS&W買収前後の主な動きを追加したものです。ちょうど東芝の取締役会によるS&W買収承認後に、東芝による減損隠しとも取れる事象が発覚します。タイミングとしては、前回ご紹介した役員責任調査委員会の報告書発表とちょうど同時期です。減損隠しが疑われる時期も、役員責任調査で問題となった2012年度〜2013年度です。2012年度に900百万ドル、2013年度に394百万ドル、計13億ドル(約1600億円当時)にのぼるウェスティングハウスの減損を、親会社である東芝は株主等に開示していませんでした。 責任を追求されてもおかしくない両氏を、なぜわざわざ昇格させたのでしょうか。 減損隠しと疑われた行為とは このウェスティングハウスの減損がどういったものだったか、簡単に触れたいと思います。東芝がWECを買収した際、実際の純資産を大きく上回る額で買収しました。この東芝が払った額と実際の企業価値の差額、のれんの処理については会計基準によってルールが異なります。米国会計基準では帳簿上ののれん価格(簿価)と事業価値を比較し(減損テスト)、事業価値が下回るものについては、差額を減損として計上するルールになっています。ウェスティングハウスは、減損テストを事業部単位で行っており、「新規建設」「オートメーション」で減損が出ました。一方、東芝はウェスティングハウス事業全体で減損テストを行った結果、減損はなかったとした、ということです。子会社単体と連結で減損判定のグルーピングを変えることは咎められることではありませんが、この場合、減損回避のためにやったとみられなくもない、というか減損回避とマスコミからみられたわけです。 S&W買収のつまずきは早々に発覚 何はともあれ、減損の釈明に追われつつも、なんとかS&W買収に漕ぎつけます。と、ひと息つく間もない2016年4月には、S&Wの運転資本を巡ってCB&Iと揉め始めます。ウェスティングハウス曰く「約11億ドルあるはずの運転資本が、マイナス9.8億ドルじゃないか。ついては20億ドル請求させていただく」と。両者が相互に訴える事態へと発展していきます。 すなわち、2016年4月にはS&Wの先行きに暗雲が立ち込め始めていた訳です。 S&W買収(失敗?)の責任は、当時、ウェスティングハウスを管轄する原子力部門を副社長としてリードしていた志賀氏や、ウェスティングハウスのCEOロデリック氏にある、そう考えておかしくないはずです。にも関わらず、志賀氏は東芝会長に、ロデリック氏はエネルギーシステムソリューション社社長に昇格します。ましてや両者は不信を抱かれている減損処理の渦中にいた人です。なぜ?なぜでしょう? S&W買収は東芝を救ったのか 答えは分からないので、ここからは完全に推測です。以下のように(1)〜(4)のパターンで考えてみました。複合的な要因があってのこととはありますが、(4)が有力ではと考えています。 2015年度決算は、ウェスティングハウスの減損を計上したため原子力の赤字はひどいものでしたが、PCも半導体も不正会計で揺れていました。医療から社長が立っているし、会長は原子力で行こう!みたいな話になっても不思議はありません。じゃぁ誰にというと原子力No1の志賀氏に落ち着いたというとこでしょうか。2番じゃダメなんですか?と聞きたいところですが、日本企業では順番飛ばしというのは。。。ないんでしょうね。仮にAさんより、部下のBさんの方が実績を挙げていても、AさんとBさんの上司と部下の関係を無視して、Bさんが先に上にあがる。。。考えづらいですね。 (2)原子力は国策なので これは記者会見の際小林喜光指名委員長(三菱ケミカルホールディングス会長)が語っています。国策である原発事業を進める上で、東芝の同事業をリードしてきた志賀氏を、東芝の顔として前に立たせる必要があったと。 「若干グレーと思われ方もあるが、グローバルな実績、国策的な事業を行ううえで余人をもって代え難く、そちらを重く見た」 まぁ国としても、「ぜったい海外企業への身売りは許さないからな」という思いもあったと思います。でも何も原子力事業の上層部にいたのは志賀氏だけではないはずです。でも、順番飛ばしは。。。ナシなんでしょうね。 なぜ、顧客であったり、投資家であったり、従業員であったり、そうした人の心象より、社内の理論が優先されるのか、残念でなりません。完全に憶測ですが、東芝の従業員の方々はガッカリされたと思います。なんだ会社は結局変わらないんだ、と。 (3)ウェスティングハウスのモチベーションをあげようとした そもそも東芝本社なんてリスペクトしていない(と思われる)ウェスティングハウス従業員が、東芝の足を引っ張ってると見なされたことで、完全にふてくされるんじゃないかと本社が危惧した。というのは大いにあり得る話だと思います。日本企業ですと、「ローカルスタッフが重用されない仕組みがあるから、現地法人の士気が下がるんだよ」なんてこと口すっぱくいわれている訳です。そこで、長くWECを率いてきた志賀氏と、アメリカ人でもあるロデリック氏を引き上げようとしたのでは。 志賀氏がどれほど現地で人望があったか不明ですが、ロデリック氏に関していうと、電力会社、GE日立を経てWECに入りました。転職が多いイメージの強いアメリカですが、製造業は比較的生え抜き文化もあります。ロデリック氏が引き上げられたからと言って、従業員のモチベーションはあがるだろうか、そう考えるとこの線は薄そうです。 (4)S&Wのディールが東芝にメリットをもたらした? S&W買収前夜、ウェスティングハウスは顧客との法廷闘争やら何やらでにっちもさっちもいかない状況にありました。Southern電力とは闘争中で、SCANA電力とも怪しくて、コンソーシアムパートナーのCB&I(S&Wの親会社)ともやっちゃいそうな雰囲気。CB&IからS&Wを買い取って、責任を一本化することで「お客さんに工事完成の延期を許してもらおう」と焦りに焦っての決断でした。東芝としては、プロジェクトが頓挫するというのはどうしても避けるべき危機でした。それは、「親会社保証発現防止のため」です。 親会社保証とはなんぞや、というと2017年2月の東芝の投資家向け発表資料に次のような記載があります。 米国AP1000プロジェクトにおいて、WHの客先への支払義務(プロジェクトを完工できなかった場合の損害賠償請求を含む)を履行できなかった場合、当社はWHの親会社として、客先にこれを支払うことが要求されている 東芝はウェスティングハウスの親会社として、7934億円の債務を保証(2016年3月末時点)をしていて、その90%弱が、米の2つの原発プロジェクトに充てられているとのこと。WECがやりおおせないと分かったら、その金を東芝が払わないといけない訳です。
もともとコンソーシアムを組んだ際、東芝はウェスティングハウスの、Shaw(のちのCB&I)はS&Wの親会社保証をした訳です。7394億円という数字はS&W買収後の発表値ですので、買収さえしなければ(WEC単体であれば)もう少し少なかった可能性もあるのです。 しかし、S&W買収の検討に入った2015年8月、東芝経営陣に漂っていたのは「親会社保証発動となったら後がない」という危機感ではないでしょうか。2015年4月に不正会計が発覚し、東芝の信頼は当に地に落ちていたのですから。 S&Wを買収、親会社保証の発動を先送りした志賀氏・ロデリック氏は、救世主に映ったのかもしれません。両氏が昇格したのが2016年6月当時は「S&Wが持ってるはずの金が想定より少ない」その程度の認識だったかもしれません。その4ヶ月後の10月、原発4基の追加コストが判明するまでは。 S&W買収の大きすぎるリスク、東芝・ウェスティングハウスは知っていたのか。 ④後半に続きます。
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