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THE UNEXPLAINED ISSUES

ニュースノギモン

モノづくり日本のガバナンスってどうなの?/東芝はWestinghouseの被害者か

10/30/2017

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日本のマスコミは、よく日本のモノづくりを礼賛していますが、本当に今でもそうなのかギモンに感じています。確かに日本の電動自転車やシャワートイレに感動する外国人は多いでしょう。ただ、そういった画期的な製品というのは、ここ数年出ていないように見受けられます。日本のモノづくりの現場を同業の外国人が視察して感動する、そういう番組があるのも「もう一度自信を取り戻したい」という願望の裏返しに思えてなりません。SHARPにせよ東芝にせよ、名門といわれた会社が身売りをし始め、最近でも神戸製鋼の製品データ改竄が発覚しました。日本のモノづくりへの信頼が揺らいできている、そういう時代が来ています。

率直にいうと、日本の製造業は大手になればなるほどモノづくりカルチャーというより、モノ(単一の)カルチャーに支配されていているのではないかと思っています。一つの企業文化の中に押し込められているので、悪い方向に流れ始めても軌道修正ができない。多くの人は新卒で入社し、なんなら寮や社宅で同じコミュニティに属し、上意下達が根付いていて、「それ違うんじゃないの?」という感覚が抜け落ちて行く。名門といわれる企業ほど、外国人・中途採用にとって狭き門であり「異論」を持つ人間が主流派になりづらい現状があるのではないでしょうか。
陰りのみえる東芝
というわけで今回は、東芝の「ウェスティングハウス巨額損失は何がまずかったのか」というギモンでいきます。「東芝がダマされた」「東芝は見抜けなかった」的な記事を見かけますが、問題は東芝にあった、というのが私の考えです。

あらすじ

話が複雑なので、ことの経緯をざっくりいうと
  • 東芝が大枚叩いて買ったウェスティングハウス(WEC)がStone&Webster(S&W)というエンジニアリング会社と原子力発電所の建設を受注した
  • 工期が遅れた
  • プロジェクトの責任一本化のためにS&Wを買った
  • S&Wの工期遅れによる損失がものすごいとわかった
といった感じです。
ことの進展を細かに追っていくと以下の年表のようになります。年表にあるターニングポイントに沿って、東芝の失敗分析を進めていきましょう!
Westinghouse破産までの流れ
各種報道よりニュースノギモン作成

ウェスティングハウスの巨額損失を招いたガバナンス

①買収の時

高過ぎた買収額
そもそも、東芝がウェスティングハウスを買収しようとした際、市場の想定価格は18億ドル程でしたが、東芝はライバル達に競り勝つために54億ドルで交渉権を得ました。当時の記事に、東芝幹部の「3年単位で25億ドルのキャッシュフローを稼げるから大丈夫」という発言が残っています。東芝の当時の主力事業は、半導体やハードディスクなど投資の規模・スピードともにもとめられる事業でした。東芝の当時の主力事業は、半導体やハードディスクなど投資の規模・スピードともにもとめられる事業でした。その需要サイクルから考えると、キャッシュフローが一定に維持できるか疑問が残ります。一方で、東芝にしてみるとだからこそ、安定した収益の柱としてエネルギーにかけたのでしょう。
​
結論からいうと、数年後のリーマンショックによる景気後退と、高すぎた買収額と企業価値とのギャップ(のれん)により、東芝のガバナンスは歪められていきます。
買収がゴールだった時代
2006年は、日本板硝子が英ピルキントンを6,160億円、ソフトバンクが英ヴォーダフォンを1兆7500億円、JTが英ガラハーを2兆2000億円で買収するなど、大型買収が目白押しでした。この年、日本企業による外国企業の買収が、始めて外国企業による日本企業買収を上回り、まさに外国企業買収のれい明期といえます。成功例として語られるM&Aもある一方で、この東芝の件については「どのように統合し、ガバナンスを利かせていくか」が考えられていなかったように思えます。もちろん、統合後の事業シナジーは描かれていました。問題は相手が人間であり組織であるということです。

​東芝の描いた絵というのは、次のようなものでした。原子力ルネッサンスが花開く(原子力市場が再興する)といわれるアメリカや、日本企業にハンディキャップのある中国や欧州市場でウェスティングハウス(WEC)にマーケティグを頑張ってもらい、その上がりをいただこう。ウェスティングハウスがとってきたプロジェクトに東芝のタービンや周辺機器も入れてもらおう。誰もが納得する戦略です。
東芝とWECの事業領域
出典:東芝IR、Westinghouse株式取得と 今後の原子力事業展開について、2006年10月
原子力発電所の設計技術は、大きくBWR(※1)とPWR(※2)の2つに分けられています。東芝はBWRの会社だったので、世界の3/4を占めるPWR市場にリーチできることに当時の報道ではフォーカスされています。一方、当の東芝は、WECの販売力への期待もかなり大きかったようです。スピード感が重視される海外案件は、日本企業にとって依然言葉の壁、規制の壁が大きく立ちはだかります。東芝のプレスリリースに記載された以下のコメントにも、ウェスティングハウスの裁量に任せる感が出ていますね。その方がスピーディに売り上げが上がっていくとの想定でしょう。※1:沸騰水型軽水炉、※2:加圧水型軽水炉、加圧水型の方が安全性が高いといわれている
ウェスチングハウス社については、これまでの経営体制と方針を尊重し、引き続き 独立性を保持した事業運営が行われます。また、当社およびパートナー企業とのシナ ジーが最大限にはかられるよう体制を強化し、さらなる事業の拡大を目指します。 出典:2006年10月東芝プレスリリース
信頼獲得に失敗
ただし、買われた側のウェスティングハウスの人たちはどう思うでしょうか。「俺たちが得るものなくね?」となりませんか。買われたのだから仕方がないかもしれませんが、相互に刺激し成長していくビジョンがなければ、モチベーションは下がる一方です。独立性が保たれるのは結構ですが、リーダーシップや統合プロセスが示されないと、「金持ちがバックについた」くらいの感覚になっても致し方ないように思えます。

買収時に発表された運営体制の図には、常勤の取締役2人、CFO(最高財務責任者)・CCO(最高調整責任者、東芝の造語)、コーディネーションスタッフの派遣を行うと書かれています。コーディネーションオフィスは、人員が記載されていませんが、WEC内に1つ東芝内に1つ作られていたようで、恐らく本社との情報共有くらいの役割しか担っていなかったのでは、と思う次第です。経験上ですが(※)、直轄の現地法人であっても本社に自動的に情報が入るとはを限りません。必ず、どの情報をどの様に誰に伝えるか選択されます。世界のPWR特許の4割を抑えている名門WECが、買収されたからといって、真っ正直にタイムリーに報告しようとするでしょうか。憶測ではありますが、情報共有という時点でもどの程度役に立ったことか、ましてガバナンスを利かせるという点においては、いうに及ばずです。 
​※:東芝での勤務経験はございません。悪しからず。
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出典:東芝IR、Westinghouse株式取得と 今後の原子力事業展開について、2006年10月

②米国で数十年ぶりの原発プロジェクトを受注

東芝が虎の子の半導体事業まで手放さなければならなくなったのは、平たくいうとWECが受注した原子力発電所のプロジェクトが難航したからです。いわゆるCost-overrun(コスト超過)というもので、大型の建設工事のEPC(計画・設計・調達・建設)を請け負うエンジニアリング会社は一発のCost-overrunでつぶれることもあるといわれています。
受注サイドにリスクがある契約
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東芝プレスリリースよりニュースノギモン作成
2008年、ウェスティングハウスはエンジニアリング大手のShaw Groupの一員であるStone & Webster (S&W)とコンソーシアムを組み、Southern 電力連合からVogtle発電所向けに2基、SCANA電力連合からV.C. Summer発電所向けに2基の計4基を受注しました。ウェスティングハウスがShaw(Stone & Webster)と組んだために、東芝が割を食ったという記事も見かけましたが、そもそも東芝がShawを巻き込んだのではないでしょうか。
というのも、ウェスティングハウス買収にあたり東芝は持株会社を設立しましたが、その持ち株会社に20%の出資を行ったのがShawです。当時の契約に、Shawはこの20%の株式を自身の判断で東芝に売る権利(プット・オプション)が盛り込まれています。つまりShaw出資が東芝の要請によるものと、判断できます。
ウェスティングハウスやS&Wの肩を持つわけわけではありませんが、新型航空機の開発が必ず遅れるように新型原子炉の建設は大体遅れます。欧州ではAREVAがやはりCost-overrunに苦しんでいます。

では、新型炉の建設リスクは誰が負うべきだったのでしょうか。

当初の契約では、vogtleでは2基をlump sum(固定価格で)92億ドル超、V.C. Summerの2基をほぼ固定価格で98億ドルで受注したと発表されています(※)。EPCの契約では、発生したコストに一定レートを上乗せして請求するコストプラスと呼ばれるものもありますが、概ね難航する原発プロジェクトでそれを喜ぶオーナーはいません。来る原子力ルネサンスに向けて先行プロジェクトで先鞭をつけたいWECとしては、固定価格を選ばざるを得なかったと推測します。 ※完全に固定ではなく、一定のコスト上昇を認める範囲と複数の項目で構成されています。その上昇分の分担を巡り、後々係争となるわけですが。
東芝が果たすべきであった義務
仮に契約を優位に進めることが難しかったとして、東芝にできたことは何か。米Engineering News Recordsの寄稿記事に興味深い記載があります。この記事を書いた方はリタイアされたエンジニアの方でBechtelの要職につき、且つShaw GroupやS&Wでも勤務経験のある方です。以下は抜粋ですが、要するにこんなことが書かれています。”第一にWECは当初社内・社外の設計データを統合する3D CADDモデルを導入していなかった。第二にモジュール化やプレハブ工法が不十分だった。最後に、EPCやサブEPC、サプライヤへの工程インプットが不十分であった”と。
The first is that the project team lacked an early commitment for a 3D CADD model to integrate all in-house and outsourced design and procurements. 
​The next assumption is that there was too little modular design and less than 95% fabrication completion status (steel and internal partial systems and components) upon shipment before construction, which the five-year plant schedule depends on.
Finally, I'm assuming that the project team failed to perform early co-location of all EPC major sub-EPC management and Vendor management, including early input into the planning and predesign process.
この記載をみて量産系のメーカーの方は驚かれるかも知れません。まだ2Dなの?と。しかしながら、ウェスティングハウスのように一点ものを作るプラントメーカーでは、3Dを活用仕切れていない会社は少なからず残っているのではないでしょうか。一度きりしか使わないのに、これまで作成してきた設計データをわざわざ2Dに移すのか?部署によって図番のつけ方や部品表も方言があるのに、市販のソフトに合わせていかないとダメなのか?等々。いみじくも、著者の方は言及されています。”ウェスティングハウスの素材名や道具名は国際標準が使われてないじゃないか!” EPCには、複数のプレイヤーの共同作業が不可欠ですし、完成時には顧客への設計情報の引渡しが求められます。したがって、色々なしきたりの標準化が進められているわけです。

Further, none of the Westinghouse designs used a universal system of knowledge, material and equipment identifiers.

経済産業省のプロジェクトでまとめられたレポートには、WEC-東芝が”EPC能力も備えている”と記載されていますが、テクノロジーオーナーであって、EPC契約の窓口であっても、やはり原子力プロジェクトの複雑性はメーカーがコントロールできるものではありません。
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CB&Iに買収されて後の、S&Wのプレゼン資料に、S&WがInformation Management SystemをClient(ウェスティングハウス/CB&I)サイトに供給したと書かれています。時期は明確ではありませんが、常識的に考えてプロジェクト当初から導入されていたと考えられます。しかしながら、受け手側のWECはこれを読みこなす・使いこなすことが出来ていなかったのではないでしょうか。先ほどから引用している記事に、後になってウェスティングハウスは2Dから3Dにデータを移管したが、設計混乱しか招かなかったようです。
東芝はWECにデータプラットフォームの活用を促したか
文春の記事に、東芝は工程管理も可能な6Dモデルを、WEC案件に導入した趣旨の記載があります。
WEC案件のコスト管理について原子力プラント建設に係る損失拡大リスクを排除するため「6D-CAD」という最先端のシミュレーションシステムを導入しており、ウェスティングハウス案件にも当該システムが導入されていた。〜中略〜(ウェスティングハウスは)6D-CADは有しておらずシミュレーション能力は原告(東芝)よりも劣っていた。よってウェスティングハウスによる見積もりは過度に保守的なものであった。
ただし導入したのは、東芝本社でのコスト評価のためだけで、ウェスティングハウスに活用させる目的ではなかったようです。仮に活用させようにも、それを進められるほどのイニシアチブが東芝にあったのか、また東芝の作成したモデルがWECでそのまま使用できるグローバル仕様になっていたのか、ギモンが残ります。
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​2017年3月、ウェスティングハウスのチャプター11発表の記者会見で、綱川社長がWEC買収後の10年をいみじくもこう振り返っています。ガバナンスや意思疎通などマネジメントに問題があった、と。東芝のEPCの実力は存じ上げませんが、あったとしてもウェスティングハウスを導く力はなかった、と言わざるを得ません。

③損失の隠蔽

不穏な空気
2011年3月東京電力福島第一原子力発電所でメルトダウンが起きると、原子力市場が一変します。アメリカの安全基準規制強化により設計が一部見直され、工期遅れとなります。そうした中、2012年3月、新CEO就任を翌日に控えたジム・ファーランド氏が辞職するという事態が起きます。いくら他に良いオファーがあったとしても、体調不良であっても、就任の前日に辞職しますか?この頃から既にウェスティングハウス内で、「まずい」という空気が流れていたのではと想像します。もしくは、マネジメントの深刻な対立が...
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さらに、東芝の原子力事業のパートナーであったShaw GroupがCB&Iに身売りします。この時、Shawが持っていたウェスティングハウス株は、プット・オプションにより東芝が1,250億円で買い戻すことになりました。

2012年11月ウェスティングハウスと顧客であるジョージアパワー(サザン電力子会社)が、工期遅れによる追加コストを巡って互いに訴訟を起こします。つまり2012年段階で、追加コストの存在は看過できない状況でした。
東芝による損失の隠蔽
2015年の不正会計問題発覚により実施•発表された役員責任調査委員会の報告書の、Vogtle案件に関する記述と思われる一節を掲載します。
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出典:東芝、「役員責任調査委員会の調査報告書」2015年11月
ことの経緯を簡略化すると、次のような次第です。ウェスティングハウス側から正規の損失計上の報告が入ると、東芝本社から調査団が派遣され東芝の査定額が示され、その額での発表を迫ります。ウェスティングハウス及びその監査法人であるEYが拒否すると、せめて「東芝の提示額に合わせるよう努力中とできないか」という交渉が入ります。東芝の示した額が正当な調査に基づくものならまだしも、当時の田中社長が「この額におさまらんか」と示した額にまとめようとした経緯が記載されています。これがあの「チャレンジ」か、と思い出しますよね。この時、東芝とウェスティングハウスの交渉の窓口にあったのが当時東芝の上席常務で、ウェスティングハウスの会長であった志賀重徳氏です。志賀氏は、WEC側の数値での発表が通らない場合、コンプライアンス上問題があると認識していたことが、この調査報告書に残っています(それでも志賀氏は東芝の会長にまで登りつめるのですが)。
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WEC損失隠蔽の構図、ニュースノギモン作成
さて、この報告書は2013年8月以降についてまとめられていますが、日経ビジネスのスクープ記事によると遡ること1ヶ月、2013年7月の久保副社長(財務担当)による、次のようなメールが流出しています。
「EYの議論を打ち切ろうとする態度が見られる。結論が変えられないという対応は監査人として明らかに失格。新日本(監査法人)のHパートナーに強く指摘した。ビット(競争入札)を行うので、EYの監査体制を一新してベストで臨んでほしいと申し入れた」
完全に圧力かけてますよね。新日本監査法人に担当を降ろされたくなければ、米EYをなんとかしろ、ということです。
ウェスティングハウスに芽生えた東芝への不審感
もともとは、東芝がウェスティングハウスのガバナンスに失敗したか、という視点で追ってきましたが、そもそも東芝のガバナンスに問題があったことが分かってきました。

ウェスティングハウスが東芝に不信感を抱いたかどうか、確認はできていません、ただ、この経緯からして、ウェスティングハウスが東芝を親会社として尊敬できるか、というと「No」だと部外者の私が判断しても良いのではないでしょうか。

これから2年後、ウェスティングハウスはS&Wを買収します。S&Wのマイナス資産をWECは知っていたのか。激動の第④章に続きます。
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